熱性けいれんの素朴なギモン―けいれんの後にジアゼパム坐剤は使う?使わない?

熱性けいれんを起こして救急外来を受診すると、
「けいれん止めの座薬を使いました、お家で●時にもう1回使ってください」
と言われることがあるかと思います。
ところで、ふつうの熱性けいれん(単純型)は、発熱から24時間以内に・数分で自然に止まるけいれんが・1回の発熱で1回だけおきるとされています。
…1回だけなはずの熱性けいれんの後に、けいれん止め(ジアゼパム坐剤)は要るのでしょうか?

【1】
2015年に初版が出た熱性けいれん診療ガイドラインでは、「来院時に熱性けいれんが止まっている場合、外来でルーチンにジアゼパム坐剤を入れる必要はない」とあります。私が小児科医になったのはガイドラインの発行以前ですが、同じように教わりました。

【2】
2000年から2021年の世界中の英語論文のデータをまとめた研究によると、熱性けいれんのうち17%(約6人に1人)が1回の発熱で2回以上反復していました。ただし、ヨーロッパの子はそれ以外の地域の子よりも反復しにくいようです。

【3】
2011年から2018年に日本人で調べた研究でも、15%(約7人に1人)が1回の発熱で2回以上けいれんしました。熱性けいれんの反復には「熱性けいれんの後でジアゼパム坐剤を使ったか」だけが関係し、使った子の6%(約17人に1人)、使わなかった子の21%(約5人に1人)で反復しました。

短時間に熱性けいれんを繰り返すと、急性脳症など怖い病気が小児科医でも頭をよぎり、頭部CTや髄液検査、経過観察入院を勧めることになります。
しかし、怖い病気はないけど熱性けいれんが反復するケースは、思った以上にあるようです。
「防げる熱性けいれんは防いで、不要な検査や入院を避けよう」という立場に立つと、熱性けいれんの後のジアゼパム坐剤には意味があると思われます。
このとき要注意なのは、脳の病気を疑わせる意識障害の判断についてです。
ジアゼパム坐剤は副作用で眠気、ふらつき、興奮などがみられますが、そのせいで意識がおかしいか家で判断できないおそれがあります。
熱性けいれんの後にジアゼパム坐剤を使ったら翌日に小児科を受診して、意識がおかしくないか診てもらいましょう。


<参考文献>
【1】熱性けいれん診療ガイドライン改訂ワーキンググループ編. 熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023.診断と治療社,東京,2023.

【2】Henry C, et al. The baseline risk of multiple febrile seizures in the same febrile illness: a meta-analysis. Eur J Pediatr. 2022 Jun;181(6):2201-2213.

【3】Inoue M, et al. Change in the strategy for prophylactic diazepam use for febrile seizures and the impact on seizure recurrence within 24 h. Seizure. 2020 Feb;75:70-74.