インフルエンザの時期になると気になる―いっそ全員検査すれば?
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先日、ネットニュースで隠れインフルエンザなる言葉を(恥ずかしながら初めて)目にしました。高熱や節々の痛みといった典型的な症状が乏しく、風邪と区別しにくい軽症例を指すようです。
そんなに軽いなら気づかなくても仕方ないのでは? 軽くても侮らずに検査したほうがいいよ? と様々な意見が行きかいます。極論として、「じゃあ、全員検査してチョー軽いインフルエンザもぜんぶ見つけたら?」と思うかもしれません。
可能性の高さに目をつむって片っ端から検査すると、隠れインフルエンザも一網打尽にできるでしょうか。
以下、かなり大雑把な見積もりなので、その前提で読み進めてください。
まず、インフルエンザの患者数を推定してみます。
今年の11/17-23にかけて、全国で約20万人のインフルエンザ患者の報告がありました(1)。受診しない人のことを想像して、患者数を約50万人としてみましょう。
日本の人口が12,065万人(今年1/1現在)、東京都は1,428万人(今年11/1現在)です。
単純割合で計算すると、11/17-23の東京都のインフルエンザ患者数の推定は
50万人×(1,428万人÷12,065万人)=約5.9万人
次に、次週の患者数がどれくらいかを推定します。
ある感染症の患者ひとりが治るまでに新たに感染させる患者数を、基本再生産数と呼びます。インフルエンザでは、この数値はおよそ2と言われています(2)(実際は、出席停止や治療によって、これよりは感染させにくいです)。
これを単純に当てはめると、次週の東京都のインフルエンザ患者数は
5.9万人×2=11.8万人
11月末の全東京都民におけるインフルエンザ患者の割合は
11.8万÷1,428万人×100=0.82%
と推定されます。
では、この集団全員にインフルエンザの迅速検査をしてみましょう。
今回も計算を簡単にするために、全体を1万人にします。
都民に占めるインフルエンザ患者の割合=事前確率が0.82%なので
インフルエンザである 82人
インフルエンザではない 9918人
迅速検査の正確さは、前回と同じ「感度65%、特異度98%(3)」とします。
検査結果と原因の組み合わせは
- ①検査が陽性、インフルエンザである 82×0.65=53人
- ②検査が陰性、インフルエンザではない 9918×0.98=9719人
- ③検査が陰性、インフルエンザである 82 – 53=29人
- ④検査が陽性、インフルエンザではない 9918 – 9719=198人
陽性/陰性的中率は
- 陽性的中率=検査が陽性のひとが、本当にインフルエンザだった確率
=①÷(①+④)
=53÷(53 + 198)×100=21.1%
検査が陽性でも、5人のうち4人はインフルエンザではない - 陰性的中率=検査が陰性のひとが、本当にインフルエンザでなかった確率
=②÷(②+③)
=9719÷(9719 + 29)×100=99.7%
検査が陰性なら、インフルエンザは否定してよい
…「隠れインフルエンザをあぶり出した」はずが、「インフルエンザでない人だらけ」になってしまいました。
これは検査が悪いのではなく、事前確率が低すぎる集団に検査したためです。
ちなみに、陽性だったひとを集めてもう一度同じ検査をすると(事前確率21.1%)、陽性的中率89.7%、陰性的中率91.3%と信頼できる結果になります。
これは、事前確率が上がったおかげです。
どんなに検査が優秀でも、手軽でたくさん検査できても、地域の流行=事前確率の情報が重要なわけですね。
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